■ 証券アナリスト職業行為基準 (1987年7月29日制定、2000年6月1日改正、2002年6月18日改正)
前 文 日本証券アナリスト協会は、広く投資関連業界を通ずる専門家組織として昭和37年に発足して以来、証券分析技術と証券アナリストの社会的地位の向上を目指し、一貫した活動を続けてきた。特にわが国資本市場の発展と国際化に伴い、証券アナリストの専門職能に対するニーズが急速に高まってきたことにかんがみ、本協会の会員の権威と信用の一層の向上を図るためには、職業的専門家にふさわしい自主的ルールを確立することが不可欠と考えられたため、昭和62年に「証券アナリスト職業行為基準」を制定し、会員の職業行為の指針として、同基準の普及・定着と職業倫理意識の涵養に努めてきたところである。
しかしながら、最近資産運用業務の拡大や投資技術の発達に伴い、証券アナリストの職業行為も一段と高度化し、多様化しつつある。また、同時に、投資のグローバル化を映じて、国際的にも証券アナリストの職業倫理・行為基準に関する統一的なガイドライン制定や各国協会固有の基準改訂の動きが広がってきている。したがって、本協会では、「証券アナリスト職業行為基準」を投資環境と証券アナリストの職業基盤の急速な変化に即応させ、かつ国際的にも遜色ない高度の基準として維持していく必要があると考え、今般基準を全面的に見直し、所要の修正と、受任者としての信任義務、投資管理の成果の提示、利益相反の開示など、規定の追加、新設を行った。この基準は、会員の所属する業界のいかんにかかわらず、証券分析に関するすべての職務に共通する行為基準として、自主的に遵守すべきものである。
1. 定 義 この基準における主な用語の定義は、次の通りとする。 「会員」とは、個人会員(検定会員および一般会員)をいう。ただし、基準「4.不実表示に係る禁止等」に定める会員には、法人会員および証券分析業務を行う賛助会員を含む。「証券分析業務」とは、証券投資に関する諸情報の分析と投資価値の評価とに基づく投資情報の提供、投資推奨または投資管理をいう。「信任関係」とは、会社とその役員、信託の受益者と受託者、証券の発行者と引受人、年金基金とその理事、顧客と投資顧問業者等、一方が相手方の信頼を受けて、専門的業務または相手方の授権に基づく業務を行う関係をいう。
「信任義務」とは、信任関係に基づき信頼を受けた者が、相手方に対して真に忠実に、かつ職業的専門家としての十分な注意をもって行動する義務をいう。「実質的保有」とは、証券の名義人であるか否かにかかわりなく、当該証券に関する経済的利害が当人に帰属する場合の保有その他の関係をもつことをいう。「重要な情報」とは、特定の証券の発行者に係る情報であって、一般の投資者の投資判断または証券の価格に重大な影響を与えるものをいう。
2. 総 則 会員は、証券分析業務のもつ重要な社会的役割にかんがみ、誠実に職務を励行し、互いに証券アナリストの社会的信用および地位の向上に努めなければならない。会員は、常に証券分析に関する理論と実務の研鑽に精進し、その職務にふさわしい専門能力を維持し、向上させなければならない。
会員は、証券分析業務を行うに当たって、専門的見地から適切な注意を払い、公正かつ客観的な判断を下すようにしなければならない。会員は、関係法令ならびに本協会の定款、規則およびこの職業行為基準を遵守しなければならない。法人会員および賛助会員は、本基準を尊重し、その役職員または構成員である会員が関係法令ならびに本協会の定款、規則およびこの職業行為基準に違反することのないよう必要な指導を行うとともに、会員による証券分析業務の独立性および客観性が確保されるよう努めなければならない。
3. 投資情報の提供等 1.会員は、投資情報の提供、投資推奨または投資管理を行う場合には、次の事項を守らなければならない。 イ.
合理的な根拠と適正な表示 (イ) 綿密な調査・分析に基づく合理的かつ十分な根拠をもつこと。この場合、それを裏付ける適切な記録を相当期間保持するように努めるものとする。
(ロ) 事実と意見とを明確に区別すること。 (ハ) 重要な事実についてすべて正確に表示すること。 (ニ) 投資成果を保証するような表現を用いないこと。 ロ.
投資の適合性 (イ) 顧客の財務状況、投資経験、投資目的を十分に確認すること。また、必要に応じてこれらの情報を更新(最低でも年1回以上)すること。 (ロ)
顧客の状況、ニーズ、投資対象およびポートフォリオ全体の基本的特徴など関連する要素を十分に考慮して、 投資情報の提供、投資推奨または投資管理の適合性と妥当性を検討し、顧客の投資目的に最も適合する投資が行われるよう常に配慮すること。 2.会員は、次の事項を顧客に開示しなければならない。 イ.
投資対象の選定またはポートフォリオの構築を行う際に適用する基本的原則と手法およびこれらについての重大な変更 ロ. 個々の投資対象の基本的特徴 3.会員は、顧客または広く一般に提供する投資情報の作成に当たり、他人の資料を利用する場合には、出所、著者名を明示するなど慎重かつ十分な配慮をしなければならない。 4. 不実表示に係る禁止等 会員は、次に掲げる事項について不実表示をしてはならない。
イ. 会員が顧客に対して行うことができる証券分析業務の種類、内容および方法その他証券分析業務に係る重要な事実ロ. 会員が有する資格 会員は、自己またはその所属する会社が達成しまたは達成することが合理的に期待される投資管理の成果を、顧客または広く一般に提示するときは、公正、正確かつ十分な提示が行われるよう合理的な努力をしなければならない。投資管理の成果の提示が、本協会の定める投資パフォーマンス基準のすべての必須基準に準拠しているときは、公正、正確かつ十分な提示が行われたものと認める。
5. 受任者としての信任義務 会員は、証券分析業務を行うに当たっては、顧客その他信任関係にある者の最善の利益に資することのみに専念しなければならず、
自己および第三者の利益を優先させてはならない。会員は、前項の業務を行う場合には、その時々の具体的な状況の下で、専門家として尽すべき注意、技能、配慮および勤勉さをもってその業務を遂行しなければならない。 6. 利益相反の防止および開示等 会員は、公正かつ客観的な証券分析業務の遂行を阻害すると合理的に判断される事項を、顧客に開示しなければならない。 証券分析業務のうち顧客に対する投資情報の提供または投資推奨(以下「投資推奨等」という。)の業務に従事する会員は、顧客に投資推奨等を行う証券の実質的保有をしてはならない。ただし、公正かつ客観的な証券分析業務の遂行が阻害されることがないと合理的に判断される場合において、投資推奨等において当該証券の実質的保有の事実が顧客に開示されるときは、この限りでない。
投資推奨等の業務に従事する会員は、投資推奨等を行う場合は、自己が実質的保有をしまたはそれが見込まれる証券の取引に優先して、顧客が当該投資推奨等に基づいて取引を行うことができるよう、十分な機会を与えなければならない。
投資管理業務に従事する会員は、自己が実質的保有をしまたはそれが見込まれる証券の取引が、自己の関与する運用財産において行う取引の利益を損なうことがないよう、当該運用財産のための取引を自己の取引に優先させなければならない。
会員は、顧客が同意した場合を除き、顧客との取引において当事者となりまたは自己の利害関係者の代理人となってはならない。 会員は、1.のほか次の事項を顧客に開示しなければならない。
イ. 会員が、その顧客に対して提供した証券分析業務の対価として、自己の所属する会社または団体以外から収受しまたは収受することを約束したあらゆる報酬 ロ.
会員が、その顧客に第三者の役務提供を受けることを推奨すること、またはその顧客を第三者に紹介することに関して収受しもしくは収受することを約束した、すべての報酬
7. 未公開の重要な情報の利用の禁止等 会員は、証券の発行者との信任関係その他特別の関係に基づき当該発行者に係る未公開の重要な情報を入手した場合には、これを証券分析業務に利用し、または他の者に伝えてはならない。会員は、証券の発行者に係る未公開の重要な情報を入手した場合において、その情報が信任関係その他特別の関係に基づく義務または法令もしくは関係諸規則に違反して伝えられたことを知りまたは知りうべきときは、これを証券分析業務に利用し、または他の者に伝えてはならない。会員は、証券の発行者に係る未公開の重要な情報を発行者から直接入手した場合において、その発行者が当該情報を公表することが適当と判断されるときは、発行者に対しその公表を働きかけるよう努めるものとする。 8. その他の行為基準 会員は、証券分析業務を行う場合には、すべての顧客を公平に取り扱うようにしなければならない。会員は、自己の証券保有や個人的取引によって、公正かつ客観的な証券分析業務の遂行を阻害しないよう注意しなければならない。会員は、証券分析業務を行う場合には、証券の発行者等との関係において、独立性と客観性を保持するよう注意し、公正な判断を下さなければならない。会員は、証券分析業務を行う場合には、当該業務の依頼者である顧客に関し知り得た秘密を他に漏らしてはならない。会員は、検定会員等の会員称号を使用する場合には、称号の権威と信頼性を保持するよう良識ある方法を用いなければならない。
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